Vol.62
平原慎太郎 Hirahara Shintaro

「この状況は大きな前振りだと思っている」
ダンサー・振付家・OrganWorks主宰
ー 7月に開催された青木尚哉氏とのオンライントークイベントで、このコロナ禍は「大きな前振りと考えている」という前向きな言葉が印象に残りました。もう少し詳しく語っていただけますか?
このコロナによる活動自粛により、劇場から足が遠ざかりました。
しかし、また元の形式に戻り人々の足が向き劇場が復活するにしろ、さらに新しいダンスの表現環境が出来上がるにしろ、過去の状況とは大きく変わるのではないか考えています。
今周りで起こっている新しい試みは全てその来るべき新しい状況の「前振り」=「プレパレーション」の様に考えています。なくなる前の悪あがきではなく、始まるための前振りと考える方が何かを考えるときに良いアイディアが出るかなと思いそう考える様にしています。
ー 小学生の頃からTRFに夢中になり、ダンス一直線の人生を歩んでいらっしゃる印象ですが、プロのダンサーとして生きることへの迷いはまったくなかったのでしょうか?
まったくありませんでした。
決心したのは中学生の頃だったと思います。
バレエスタジオで先生にそういうお仕事もあると言われた一言で決めました。
ー ダンスと同じくらい熱中したものは、これまでにありますか?
今、ダンス以外で熱中していることは?
やってることの延長にあると考えていますが、HipHopカルチャーに傾倒しています。日本語のラップは常に聞いてしまいます。
あとは絵画などの美術全般の鑑賞、陶器鑑賞です。
ー プロになる前のあるバレエセミナーで講師から「向いていない」と言われ、翌日のコンテンポラリークラスで「センスがある」と評価されます。
普通ならコンテのクラスに行く気も失せてしまいそうですが、その強さはどこからきているのでしょう?
ジャッジを受けたかどうかということも、そのエピソードの中で特徴的ですが、バレエ教師は枠がありそこに挑むジャンルであることを厳しくも10代の人間に伝え、その次の日にコンテンポラリーダンスの教師はダンスの枠は広く無限であることを示しました。
ふたつのことが合わさり一つのセットのエピソードです。強さは別段関係なく、そのときは特に持ち合わせてなかった様に思います。
ー 2013年のOrganWorksの設立で一番困難だった点や、カンパニー維持でもっともチャレンジングなのはどんな点でしょうか?
制作面ですね。次から次へと湧き出るアイディアを抑えること、それを公演しない様にするのに苦労しています。
ー 2015年のマドリード公演はどういう経緯で実現したのでしょう?
2013年に留学されていますが、以前からスペインに深い思い入れがあったのでしょうか?
2014年に公演した作品を気に入ったスペインのプロデューサーが招聘してくれました。
スペインのマドリッド在住の振付家カルメン・ワーナーと2003年から親交がありその縁で彼女から学べることがあるはずと留学を決意しました。
スペインのダンサー達は基礎があり、身体が強いほか、演劇的要素もこなせるダンサーが多く魅力があり、現地に行ってから解ったことも沢山ありました。
ー これまでダンサー・振付家として挫折感を抱いたことはありますか?
自己肯定感がずば抜けてるので、瞬間瞬間では挫折感もかすめるかもしれませんが、所詮かすめる程度です。特に最近は、ですね。
挫折感を感じた瞬間にそれをクリアすることを模索する方へ思考が向きます。
ー 出演作でターニングポイントとなった演目名とその理由を教えてください
振付作品としてはどうですか?
2003年の金森穣さん振付の『L』です。
振付家という仕事の責任を、そのときに多く学んだ気がします。そしてその頃に振付家になる決心をしたと思います。そういう意味でターニングポイントです。
自身の作品は『象の牙の塔』というソロ作品で、言葉を使った作品でしたが、
その言葉を使う表現方法に一つの答えが出せた作品という意味でターニングポイントです。
ー ご自身が観た舞台の中でもっとも印象に残る舞台と、ダンサーを教えてください。
ウィリアム・フォーサイスの『クインテッド』かな、と思います。(*)
その作品にファブリス・マズリアというダンサーが出演していたのですが、身体の深いところから湧き出る様なエネルギーと野性味が印象的でした。
ー 振付家・ダンサーとしての表現において、これはやりたくないといった信念のようなものはありますか?
例えば、愛を伝えるのに「愛してる」と言ってしまう様な表現は苦手です。
それからアイディアが、作家個人の中で完結しすぎてしまっているもの、時間の経過を捕らえられてないアイディアも苦手ですね。
ー 今後の公演のご予定は?
北海道の白老で、白老の町から構想を得た作品の公演と、豊岡芸術祭に出演します。詳細は追って公開いたします。
ー 今後のダンサー・振付家としての野望もシェアしていただけますか?
野望は止まらないことです。続けるというより止まらないことですね。
あとは、色々な方と出会い、ダンスの定義を広げていければと思います。劇場に従事できる様な立場になるのも野望の一つです。
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