Vol.64
北村明子 Kitamura Akiko

「常に身体 の新しい魅力の発見に喜びを感じたい」
ダンサー・振付家
ー 幼い頃にバレエとジャズダンスを習い始めたとのことですが、きっかけを教えてください
バレエは自ら「やりたい」と言ったと母から聞いていますが全く自覚がありませんでした、笑。ジャズダンスは当時流行っていたストリートダンスやマイケル・ジャクソン、ジャネット・ジャクソンのMTVのダンスに感化されて習い始めました。
ー プロになる前、憧れたダンサーはいらっしゃいましたか?
たくさんいます。でも、一人挙げるとなるとフレッド・アステアです。高校時代、お正月特集でTV放映されていたハリウッドミュージカルの映画を何度もみて、アステアの身のこなし、踊り、フレームにハマる身体のフォルム、全てに虜になりました。
ー 東南アジアの伝統武術にも興味を持たれた理由は?
まずは戦う姿、洗練されたコミュニケーション、動きのシャープさ、美しさスピード感に魅了されました。まるで真剣勝負の踊りを見るような感じでした。そして、デモンストレーションでしたが、戦い方を実演してくださっている人々の身体そのものがとてもポジティブなエネルギーに満ちているように感じられ、戦いながら溢れる笑顔で楽しそうだったということも惹かれた点だと思います。
ー なぜダンスに歌を取り入れようと思ったのでしょうか?
歌はダンスなのです。もともと声を出したり、呼吸するときの身体の状態や動きに強い興味がありました。動物の鳴き声や吠えるときの全身みなぎるエネルギーや繊細な変化にハッとすることがあるのです。
ー 信州大学での何の講義をされているのでしょうか?生徒さんからの反応/質問で印象的だったものは?
講義や演習・実践系担当しています。実践系では、大学と地域との連携で、学生と共にパフォーマンスショーイングを企画したり、国内外のアーティストを招聘してワークショップやレクチャーを企画しています。企画などの実践では、学生たちの、自分たちの役割を必死で考えて実践と思考に向き合う姿勢が新鮮です。アイデアも私が追いついかないような内容もあるので、時に、舞台領域の既成の発想にとらわれているのは私自身だ、と感じてしまうこともあります。
ー ダンサー・振付家としての美学はありますか?
または絶対これはやりたくないといったこだわりはありますか?
変容し続けるということです。身体は生まれた時から刻々と変化し続けていますが
常に身体の新しい魅力の発見に喜びを感じたいと思っています。
ー これまで周囲から受けた中で、もっとも励みになっている言葉はありますか?
「正解が見えないことほど面白い」という亡くなった大学の恩師の言葉です。
ー ダンサーをやめようと思われた辛い出来事を経験されたことはありますか?
怪我は常に不安や恐怖を感じさせます。特に肩の手術をした時は、もう舞台で踊ることはないだろうと考えていました。回復の過程で身体と真剣に向き合い、勉強することがたくさんあったことから、身体への興味がますます湧いてきて、自分の身体でも実践したことが増えてきました。
ー ターニングポイントとなった出演舞台と振付作品、またその理由も教えてください
artzoyd(仏のチェンバー・ロックグループ)プロデュースの『Kairo』(原作:『回路』黒沢清 著)というビデオオペラ作品への出演です。黒沢監督の映画『回路』にも少しだけ幽霊の役で出演させていただきました。舞台作品『Kairo』(Gerard Hourbette 作曲・企画・構成)では同じく幽霊役なのですが、出演パートが多かったので、原作や舞台の演出家、作曲家の世界観にある多様なゴーストの存在を自身の身体の思考でどのように抽出していけば良いか研究しました。「なにものかになる」、まるで憑依体験のような時間がとても刺激的でした。
自身の作品ではプロジェクトになりますがCross Transit project です。自身で始めた東南〜南アジアのアーティストの皆さんとの協働が身体を通して実感されてきたとても重要なプロジェクトです。
ー 音楽と音楽と振付の関わり方について、通常の創作過程は音楽の選曲が先でしょうか?
大体は同時進行で音楽家と対話をしながら作成していきます。
ー アイルランドとの共同制作プロジェクトがはじまったきっかけと目指すゴールを
教えていただけますか?
欧州文化首都Galway2020のフェスティバル参加のお声掛けがきっかけだったのですが、リサーチしていくと、これまでやってきたアジアとのプロジェクトの先にやりたいことが見えてきて、単年のコラボレーションではなく長期発展型でやりたいという気持ちが強くなりました。目指すゴール・・・壮大すぎてまとまりませんが、途方に暮れるほど広大に広がるダンスの迷宮をうろうろしているうちに、ある原石を見出し、その原石から見たことがあるようで新しい、懐かしいけど知らない、というような未来を切り開く鍵を見つけたいと思います。
ー 2021年初となる「Echoes of Calling」はどういった公演内容になりそうですか?
コロナ禍で多くのことを学ぶことになった毎日で、その間の思考は自然に浸透していくとお思います。言語を超えた音の世界、声の響きに身体の対話を見出すような、そのプロセスそのものがダンスになるのではと考えています。
ー タイトルに込めた思いもお聞かせください
身体で共有、共感することはあるときは言語の壁を超えていくことができますが、なにも同じ文法を共有していなければ難しくもあることです。Callingは生きとし生けるものへの呼びかけ、対話の呼び起こし、そして、祈りという意味も込めています。身体の声、動き、呼吸の呼びかけが響き合い、新たな繋がりを見出すようなイメージを込めました。心身のの奥底にある震えから繰り返されるリズムや歌、動きが、新たな共通語、輝きを見出すかのようなイメージです。
ー これから挑戦されたいことや野望をシェアしていただけますか?
先日、令和2〜3年の文化庁文化交流使を拝命いたしました。これまでにない出会いと気づきに満ちた時空を経験するはずです。自身が滞在したことのない様々な地域で、これまでにない視点で、踊りの魅力を共感し、新たな様相を探求し続けることができたら、と思います。
〇公演情報
A Collaboration Project between Ireland and Japan
『Echoes of Calling』
2021年1月9日(土)〜11(月・祝)Spiral Hall
https://www.spiral.co.jp/topics
〇北村明子・プロフィール
幼少時にバレエ、ジャズダンスを学び、高校時代にはストリートで踊る。
95年に文化庁派遣芸術家在外研修員として欧州に滞在、96年の帰国後、
欧州滞在中に考案した独自の振付法「グリッド・システム」を用いた
作品を立て続けに発表。2010年4月よりソロ活動を開始。
信州大学人文学部・芸術コミュニケーション講座准教授
http://www.akikokitamura.com/
