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秋山 瑛
Akiyama Akira

DancersWeb
Vol.75 Oct 2021
東京バレエ団ファースト・ソリスト
「やればやるほど何かが変わるし、終わりがない」
2016年1月に東京バレエ団入団以降、重要な役どころに任され、現在ファースト・ソリストに昇格した秋山瑛。先日の10月25日の『海賊』では主演メドーラを、初役と思えないほどの落ち着きと安定感のある踊りで魅了。音の取り方もしっとりとした優雅さがあり、余裕すら感じさせた。
そして、金森穣・振付の新作『かぐや姫』の主演にも抜擢され、ますますの躍進ぶりに目が離せない。これまでのバレエライフや、『かぐや姫』のリハーサルについても語ってくれた。
―小学6年生から東京バレエ学校に通われた中で、もっとも思い出に残っているのはどんなことですか?
楽しかった思い出はたくさんあるのですが、一番印象的なのは、最初に入ったSクラスだと思います。
最初は週に一度、日曜日だけSクラスというクラスに通っていたのですが、毎回のレッスンですごく緊張していて。周りのみんなはすごく上手だったし、とても緊張感のあるクラスでついていくのに必死だった思い出があります。
オーディションも初めて、バーの位置やセンターの並び方が決まっているのも初めて、生のピアノでレッスンできるのも初めてだったので、本当にドキドキしながらレッスンしていました。Sクラスに通った数年後から、選科(当時)というクラスにも通うようになり、週に5~6回はレッスンをしていました。
―17歳で海外へ留学する意思はご自身の強い希望だったのでしょうか?
そうです。海外にも行ってみたい、経験してみたいという気持ちが強くあり、留学を希望しました。
今思うと、大きな賞や実績も特になく、この先プロになれるかどうかぜんぜん分からない状態だったのに、「留学に行きたい」と言い出した私を応援し、送り出してくれた両親に感謝しています。
―リスボン留学後にイタリアのバレエ団に入団されていますが、プロのダンサーになるという意識はいつ頃からでしょう?
プロのダンサーになりたい!と思ったというよりも、バレエがすごく好きでやめる選択肢を持てなかったので、続ける道を模索した先に今があるという感じです。
出会えた方に恵まれていたし、いろいろな方にたくさん助けていただきました。とても運が良かったなと思います。
―10代の頃、憧れたダンサーはいらっしゃいましたか?
吉田都さん、アリーナコジョカルさんに憧れていました。
小さな頃からバーミンガム・ロイヤル・バレエ団の「くるみ割り人形」の映像を何度も何度もみていて、そのときには都さんが有名な方だとは知らなかったのですが、本当に憧れていました。
うまくいえないのですが、アリーナさんは踊りも演技も振り付けではなくて中から自然に生まれているようにみえて、大好きです。
東京バレエ団に入ってから、都さん、アリーナさんのお二人にお会いする機会があり、信じられない気持ちでした。
緊張して声をかけられず、写真撮影などもお願いできなくて後悔しています…。
―もしダンサーでなかったら、どんな職業を選んでいたと思いますか?
一つのことを続けることが好きなので、なにかの職人さんになっていたかな、と思います。
あとはヘアメイクさんにやっていただくと、自分でやるのとはぜんぜん違って仕上がりが本当に綺麗で感動するので、私もヘアメイクのお仕事を選んでいたらどうだったかなと考えることもあります。
―斎藤友佳理さん主演の『ドン・キホーテ』DVDを子どもの頃からご覧になっていた秋山さんが、斎藤芸術監督のもとでキトリを主演されたというのは運命的な感じがします。お気に入りのDVDだったんですね。
登場人物たちが生き生きしていたからかな。バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の「くるみ割り人形」も、東京バレエ団の「ドン・キホーテ」も、まだぜんぜんバレエに詳しくなかった私でもお話に惹きこまれて楽しく観ていました。
―斎藤芸術監督の「絶対人の真似をしないで」という指導はとても深いですね。
そうですね。深いですよね…。
同じ振付で同じ音で踊っても、全く同じになる人はいないと思うんです。
その人にしか持っていない何かが絶対にあるので、他の方を素敵だなと思って参考にさせていただくこともたくさんあるのですが、「自分がどんなふうに踊りたいか」を考えることは絶対にやめずに、作品に向き合っていきたいと思っています。
―これまでの出演作品でもっとも印象に残っている舞台はありますか?
たくさんあって難しいのですが、入団してから全幕で初めて主役をやらせていただいた2019年の「くるみ割り人形」でしょうか。
ベースはあったものの、改訂版で衣裳や振り付け、装置などほぼすべて新しくなるときだったので、試行錯誤しながら新しく作品を創っていく過程に関われたことは、すごく大きな経験になりました。
当日は緊張しましたが12月15日の本番、舞台上で感じた感覚は特別でした。
―観客として、これまでみた舞台の中で印象に残っている舞台はなんでしょうか?
たくさんあって、むずかしいですね…。
客席から観た舞台ではないのですが、世界バレエフェスティバルの全幕プロの「ドン・キホーテ」でボリショイ・バレエのマリーヤ・アレクサンドロワさんとヴラディスラフ・ラントラートフさんがゲストでいらしたときのことです。
リハーサルやゲネプロでは来日した直後だったこともあり、調整するくらいで、フルで踊られてはいなかったんです。そうして当日までほぼお2人の踊りを見ずに本番を迎えたのですが、いざ幕が上がったらお2人のパワーと求心力みたいなものが本当に凄くて…。
私はそのときキューピットをやらせていただいていたので、自分の出番以外は袖からずっと観ていたのですが、ダンサーたちもフェスティバルホールのお客様もお2人に引っ張られて舞台がひとつになっているような感覚に陥りました。
その場にいるだけで意識的に参加しようと思わなくても、勝手に物語の一員になっているような不思議な感覚で、本当にすばらしかったです。
―新作「かぐや姫」が11月6日から開幕しますね。オーディションでの金森穣さんの第一印象は?
「うわあ!金森穣さんだ!本物だ!」という感じでした。(笑)
穣さんがスタジオに入られると空気が変わって、緊張感がすごかったです。
振付を覚えるのにも必死でしたし、穣さんが見ている前で踊るのはすごく緊張しました。
―チラシ表の写真がとてもアーティステックで素敵です。撮影秘話をお聞かせください。
ありがとうございます!
チラシは写真ですが、静止して撮ったものではなくて私が動いているところをカメラマンさんが映像と写真とで撮ってくださいました。
どんな動きをするかなどは特に指定がなくて、「こんなイメージで踊ってみてください」とディレクターさんに指示をいただき、出来上がりをその場で確認しながら、今度はもう少し楽しげに、とか少し切ない感じで、などイメージから連想して色々な動きを試しました。
―これまで何度かリハーサルを重ねてきて、「かぐや姫」の作品の面白さはどんなところに感じますか?
最初にきいたときは、日本に昔からある「かぐや姫」の物語を穣さんの世界観だとどんなふうに舞台に表現されるんだろうとすごくワクワクしました。
クリエーションがはじまってからは、ダンサーたちのフォーメーションの変化や音、身体の動きでその場面の情景や登場人物の心情がどんどん描かれていって、あっという間に物語が出来ていきました。
今までにやったことのない動きや演出がたくさんあるので、難しいけれどすごく勉強になりますし、私自身も作品の全貌がみえるのが今から楽しみです。
自分の動き次第で見え方がすごく変わるので、観ている方にかぐや姫、というキャラクターを伝えられるように突き詰めていきたいと思います。
―秋山さんにとって踊るモチベーションは?
踊ることで表現できることの多さにずっと惹かれているからでしょうか…。
正解がなくて、難しくて、なんでこんなにできないんだろうと思うことばかりですが、やればやるほど何かが変わるし、終わりがないですし。
自分の踊りで何か表現できることを少しでも増やしたいという気持ちがモチベーションかな、と思います
―今後挑戦されてみたいことや目標とされていることをシェアしていただけますか?
大きな目標は、作品や役によってガラッと変われる、幅の広いダンサーになることです。
日々を大切に、ひとつひとつ目の前の作品と向き合って踊っていきたいです。
東京バレエ団
『かぐや姫』第1幕/『中国の不思議な役人』/『ドリーム・タイム』
【東京公演】
2021年11月6日(土)、7日(日)東京文化会館大ホール
【新潟公演】
2021年11月20日(土)りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館
https://www.nbs.or.jp/stages/2021/kaguyahime/index.html

