Top Interview_
二山治雄
Niyama Haruo

DancersWeb
Vol.81 Apr 2022
バレエダンサー
「まだやっていないことに挑戦してみたい」
2014年のローザンヌ国際バレエコンクールで見事優勝し、日本人ではじめてパリオペラ座バレエ団への
短期契約を果たしたバレエダンサーの二山治雄。重力をまったく感じさせない柔らかい跳躍と美しいライン、
独自の世界観に瞬時に惹き込まれる。2020年以降は日本に拠点を移し、精力的に活動中。
新作の舞台を1ヶ月後に控えた中、ひとつ一つ丁寧に言葉を選びながらインタビューに応じてくれた。
―池上直子さん振付の新作「星の王子さま」に主演されますが、リハーサルはどのような感じですか?
まだ5回目のリハなので、振りを覚えている段階ですが、僕が思っていた以上にコンテっぽいですね。
3回踊るチャンスがあるので、1回1回違う踊りになるんじゃないかな。
1回目は緊張するでしょうし、2回目は反省点を踏まえるでしょうし、全体像がまだ観ていないので、
どうやってピースが埋まるのか、イメージが固まっていないので楽しみです。
―コンテンポラリー作品の出演は、NBAバレエ団で2016年に初演された平山素子『あやかしと縦糸』に
出演して以来ですね。
みんなで意見を出し合いながら、ひとつの作品をつくっている感じで雰囲気がとてもあたたかい。
技術的なことでいうと、僕はクラッシックがメインなので苦戦していますね。オーディションで選ばれた6人は
コンテを踊っている方なので、僕は必死です(笑)。古典バレエは役にも忠実ですが、新作は直接振付家から
意見を聞けて、目の前で観ながらできるのでとても新鮮です。
リハーサル以外に、火曜と金曜はコンテのクラスと、コンテ用のバーレッスンも受けています。
そのおかげでリハーサルもスムーズに入れるので、すごく助かっています。
ほかの曜日はクラシックとピラティスも受けていますが、どんなことでもやはり基礎がとても大事なので、
こういうレッスンが受けられるのはとても有り難いです。
―パイロット役の宝満さんとのリハはどうですか?
宝満さんとは3回リハを終えたところですが、安心してできるいうか、いっしょにやっていてすごく
居心地がいいですね。
―王子の役作りは?
じつは、偶然家に本があったので読んでいる最中です。
池上さんの振付は、原作のまま沿って創作されているので、僕なりの解釈の王子を演じたいと思います。
―バレエ協会の『エスメラルダ』ではアクティオンに出演されました。野性的な役どころは初でしたね。
最初に話をいただいたとき、「大丈夫かな」という不安がありました(笑)。
藤島光太さんと牧村直紀さんとのトリプルキャストだったのですが、おふたりはアクティオンのイメージが
あるので真似をしつつ、どういう風に踊ろうか試行錯誤していましたが、最終的には、自分の踊り方でやろうと
覚悟を決めました。
その役がどうだったかという気持ちよりも、まだコロナ禍で、その上戦争が始まってしまったという複雑な
思いの中、こうして踊れる幸せな立場にいることを痛感しながら舞台に立ちました。
僕を育ててくれた長野の白鳥バレエ学園から先生や友人も観に来てくれて、たくさん応援してくださる中での
公演だったので、お客さんに対しての感謝を込めて一心に踊りました。
―3人のお姉さんがいらっしゃるとのことですが、7歳からバレエをはじめたきっかけは、
やはりお姉さんですか?
姉3人はバレエ習っていないんです(笑)。
保育園に通っていたとき、気になっている女の子がバレエを習っていたんです。
なので、その子が通っている教室に行ったのがきっかけです。
―とても可愛らしい素敵なエピソードですね!
学生時代はバレエ漬けの日々だったと聞いています。
小学生の終わり頃からコンクールに出始めて、中学生では週4回習っていました。お教室の先生に勧められて
ローザンヌを目指すことになったのは高校生になってからです。その頃からバレエ漬けの日々になりました。
―ダンサーとして、もっとも影響を受けた人は?
一番はやはり白鳥バレエ学園の先生です。先生の言葉はいつも大切にしています。
とても印象に残っているのは「すべてにおいて無駄なことをたくさんしなさい」という言葉です。
サンフランシスコ・バレエ・スクールの留学後、同バレエ団から研修員として契約をもらったんですが、
断ってしまったんです。周囲のみんなからはもったいないと言われたのですが、僕としてはスキルも精神面も
研修員としてまだ準備できていないという思いもあって、帰国して高校に戻り残りの半年を終えて卒業しました。今でもその決断で良かったと思っています。
いばらの道を選んだのかもしれませんが、すべての経験が全部自分の身になっていると思います。
辛いことや悲しいことも色々経験してこそ、舞台で表現できると思う。当時は、なんでこんな回り道を
してるんだろうと思ったこともありましたが、先生のおっしゃっていた言葉を理解できるようになりました。
―ダンサーとしてのターニングポイントは?
まず、2014年にローザンヌ国際バレエコンクールで受賞したことがひとつ。
そして、2017年にパリ・オペラ座バレエ団に短期契約で入団したことですね。
最初の1年目は出演機会がなかったのですが、2年目はアンダーキャストなのにソリストの役をもらえました。
でも嬉しい反面、契約団員の立場とかアジア人差別も経験し、葛藤もありました。想像していたのとは違った
けれど、本場の雰囲気を肌で直接感じられたのは貴重だった。今振り返ると幸せだったなと思いますが、
当時はとにかく必死で悩みながら踊っていました。
―ローザンヌコンクールの優勝でプロになろうと決意されたのでしょうか?
そのときはプロのダンサーになろうという明確な意思はなかったですね。
バレエは好きだけど職業にしようと思ったときに責任が生じるし、体格面とかコンプレックスとかもあって、
これ以上やったところで負けてしまう。何か将来に役立つものをと考えて、調理師の免許を取ったんです。
―これまでのダンスライフの中で、ダンサーを辞めたいと思ったことはありますか?
バレエを踊ることが辛くなった時期はあります。
僕は中途半端がすごく嫌いで、やるならなんでも熱量をかけてやりたい。
学生のときはがむしゃらに踊ることだけに集中できたけど、だんだんと年を重ねるとそれだけではダメと
いうことが分かってきて、このまま僕は何をしたいのだろうかと。
その当時、パリオペに所属していたのですが、コロナ禍で公演がキャンセルになったことで
自分を見つめ直す時間ができました。結局、その答えは見つからなかったのですが、やったことがないことを
やってみようと、バレエから離れてみることにしました。
僕はバレエの世界しか知らないし、アルバイトもしたことがない。
2020年に帰国後、24時間営業のスーパーのレジ打ちをしました。初アルバイトです!
はじめての経験で楽しかったですね。そして老人介護施設で事務の仕事と介護のサポートをしたり、
とても新鮮でした。
―バレエに戻れたきっかけはなんでしょうか?
これまでを思い返したときに、僕は自分の視点でしか見てなかったことに気づきました。
僕が何のために踊るのか?それはお客さんに楽しんでもらうことなんだろうと。
これまで色々な人に支えてもらい、応援してもらって、その感謝と楽しさをお客さんに届けることではないかと。
そう考えを変えてから少し楽になったというか、頑張ろうと前向きな気持ちになりました。それまでは
お客さん目線で考えたことがなく、自己完結していただけだったんです。
コロナ禍でマイナス面も多かったけど、自分を見つめ直す大事なきっかけになりました。
―オフのときは、どう過ごされていますか?
舞台の後の1日は休みますが、2,3日何もしないと罪悪感が沸くんです(笑)。
何もレッスンしなくていいのかなと。基礎は非常に大事なのでレッスンを怠ると、止まるか落ちるか。
レッスンとトレーニングは欠かしたくない。結局僕はバレエが好きなのかな(笑)。
―ダンサーとしての「美学」は?
難しいですね……。25歳の年齢でまだ言えるようなものではない気がする。
それぐらい僕にとって簡単に言えない大切なもの。それが分かるのがもっと先なのかなと思うし、
言葉で表現できないものかな。
―今後やってみたいことは?
海外のカンパニーでもう少し”修行”したい気持ちはありますね。そして最終的に踊りたい場所は日本。
まだやっていないことに挑戦してみたい。今回の舞台もどんな作品になるか、自分でも楽しみです。
〈Dance Marché vol.10 Dance Performance ダンサー育成プロジェクト第5弾〉
ダンスマルシェ「星の王子さま」
2022年4月27日(水)、28日(木)スクエア荏原 ひらつかホール
https://www.dance-marche.com/stage
ダンスマルシェ「星の王子さま」無料オンライントークイベント
二山治雄×宝満直也x池上直子
2022年4月15日(金)21時〜
https://eplus.jp/sf/detail/3598490001
