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​DancerWeb
Vol.51
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神戸里奈 Kanbe Rina
「やりたいことをやることは周りの人も幸せにする」
​バレエダンサー

 16歳から19歳まで多感な時期を過ごしたオランダ留学を経て、19歳から日本有数のバレエ団に入団しプリンシパルとして活躍ののち、2016年からチェコ国立ブルノバレエ団に所属。「いつかヨーロッパのバレエ団でも踊りたい」という夢も叶えたのち、20189年からは活動の場を日本に移し、ゲストダンサーとして様々な公演で主演を務めるバレエダンサー・神戸里奈。雨天の晴れ間の中、キラキラした笑顔で快く撮影に応じてくれた。傾斜45度の坂の上でもピタリとアラベスクで決めるあたり、さすがである。15歳で挑んだローザンヌ国際バレエコンクールの舞台裏や、ダンサーとしてアドバイザーとしての想いなどを丁寧に真摯に語ってくれた。

「オランダ留学を選んだのは、コンテンポラリーに興味があったからです。オランダの国自体もアジアからの留学生に寛大で、すごくオープンな国と聞いていました。ひとり一人の個性を生かした教育をしているということでしたので、選びました。

父親は、『一芸で生きていくのは難しいから大学進学をした方がいい』という思いだったようですが、ローザンヌ国際バレエコンクールで賞をいただいてから

可能性を理解してもらえるようになりました。私自身もバレエを続けて行っていいかという決断をしようと考えていたので、15歳のとき留学したいと両親にお願いしました。

現地でひとり暮らしをするようになって、どれだけ周囲に助けられていたんだということを痛感しましたね。自分の意見を積極的に人に伝えることも学びました」

 

~忘れられない言葉~

 

 その留学へと導いたローザンヌ国際バレエコンクールで、もっとも影響を受けたバレエダンサーに出会う。

「ローザンヌでは、本番前にヴァリエーションの指導をしてもらえるのですが、そのとき、モニク・ルディエールさん(元パリ・オペラ座バレエ団エトワール)に教えていただきました。

 

『踊り終わったあとにお辞儀してもいいんですか?』『あたりまえでしょ。コンクールでは審査委員もお客様です。お客様に感謝して踊るのよ。』日本では当時、コンクールでお辞儀しないのが一般的だったらしい。

 

「モニクさんは、お客様にどれだけ楽しんでいただけるか、それまで日本のレッスンでは、先生と生徒の境界線がはっきりしていて、『こうしなきゃいけない。この手はここの位置』と、できないことを教えてもらっている意識でしたが、ローザンヌでは、

積極的に質問もできたし、悩みを相談できたことが嬉しかった。受け身でなくていいんだということが分かったことが、とても刺激的でした」

その吸収力の早さが、エスポワール賞とコンテンポラリー・ヴァリエーション賞の受賞につながった一因となったことは間違いない。

 

王立コンセルバトワール バレエ科で3年間学び、19歳で帰国後、Kバレエカンパニーに入団する。

「これから新しくはじまるカンパニーの一員になりたいと願っていましたので、約13年間そこで過ごせたことはすごく幸せです」

 その間に、ターニングポイントとなった舞台にも出合う。

「20代後半に主演させてもらった『ロミオとジュリエット』です。橋本直樹さんが相手役でした。私は、それまでは自分の欠点をどう消していけばいいのかと

いう方向に走ってしてしまい、殻に閉じこもっていたと思います。でも、みんなが知っているキャラクターを私だったらどのように踊れるか。ジュリエット像を丁寧につくろう。

こういう振りにはこんな理由があるなど、模索することに集中しました。半年間の準備期間があったので、彼女が見たであろう教会はこんな感じかなと、

写真を部屋に飾ったりジュリエットの日常生活を想像して、日々の生活を生きるように心がけました。そのおかげで、舞台に立ったときに演じている感覚がなかった。

ロミオに恋に落ち、恋人が従兄弟を刺してしまった現場に遭遇してしまった感覚。演技は本来こういうものなのかなという実感が得られました」

 

 

 

 

 

 舞台上でほぼ完璧に見える踊りも、自身の欠点を明確に挙げるバレエダンサーが多いことに驚かされる。

「踊りの強さでしょうか。バシッとした鋭い動きや静止したポーズをつくることに苦手意識があります。欠点を克服するために、レッスン以外でもトレーニングに通ったりしています。バレエの同じポーズをしても、その人の骨格や筋肉の付き方によってまったく違ってみえます。完璧の型に近づけないことに悩んでいましたが、自分のできる範囲でやるしかない。30代になって開き直りました(笑)」

 

 本番直前の過ごし方は、ダンサーによってそれぞれ異なるのも興味深い。

「特に、ゲネプロ(通ししリハーサル)では頭をフル回転させないといけません。自分の踊り以外にも、立ち位置、距離感、照明の当たる位置などすべての段取りをしっかり

把握しないといけないので、いったんリフレッシュする時間を作ります。じつは、ローザンヌ国際コンクールの前も寝てました(笑)。朝レッスンをして、自分の順番を

回ってくるのを計算してぐっすり眠ります(笑)。

 でも本番は毎回心臓が飛び出そうになります。それはずっと変わりません。オーケストラの調律の音が聞こえると、自分の心臓の音が聞こえるぐらい。

開幕直前は意識的にギリギリまでしゃべっています(笑)。この方がリラックスして切り替えられます」

 

 

~死んだままでいたかった~

 

「ダンサーとしての挫折感は毎日です。この位置にハマらなかったな。音楽といっしょにポーズが決まらないとか、課題は毎日のようにあって、まだまだだなと思います。

それでもダンサーを辞めたいと思ったことはないです。バレエを投げだせるほどの勇気はありません(笑)。

ダンサーで良かったと感じる瞬間は、チャイコフスキーやラフマニノフなど19世紀の偉大な作曲家の音楽といっしょにコラボしている感覚を味わえるのは幸せです。

時空を超えた創作を彼らと共にしているような幸福感があります。

私は型ありきではなく、感情を重視しての踊り手でありたい。感情を『型』で表現するバレエのメソッドもあります。「好き」の感情を首の向き、手の出し方など、踊り手の個性は二の次で、見せ方ですべてが決まることもあります。でも私としては、個人個人の感情の出し方は違うから、ひとりひとり違ってもいいんじゃないかなと

思います。同じ舞台でもキャストが違えばこんなに違うのかと観る方も違いを楽しんで頂けたら嬉しいです。

私自身、そういった違いを見るのが好きで、バレエだけでなく、演劇も観に行きます。同じお芝居を5回観ると俳優さんのここはアドリブなんだなとか分って面白いですね。やはり生の舞台っていいなぁと思います」

 

 幕が降りてほしくないと思った出演舞台も聞いてみたい。

「2013年の『ジゼル』ですね。このまま死んだままでいたい、と思いました。主人公のジゼルはものすごく純粋ですよね。裏切られたアルブレヒトを少しも恨まず、

愛情で包み込み、ひとつの恋だけを知って死んでいった。そんな綺麗な感情を持った彼女は素敵だなと思いました。これ以上の感情に出合えないところで天国に召された。

 その幸せな感情が中々抜けきらなかったみたいで、カーテンコールでお辞儀をした記憶がないんです。現実に戻ってこられずにボーっとしていたと思います」

 

 特に、「世界で一番幸せ」と感じた場面があるという。

「1幕の狂乱シーンの前、袖で次の演技にために髪の毛をほどいてもらっている間、『このあと狂乱シーンができるんだ』と思って、すごく幸せでした。“狂乱”してしまうこと自体、実生活では中々できないですよね(笑)。それを私は、お客様が観ている前で感情のまま思いっきり出していいんだと

思うととても嬉しかった。

 『ジゼル』にはもうひとつ思い出があって、谷桃子先生に2幕を指導していただいたことがあるんです。上半身の顔の角度とかアームスのちょっとした動きが、それこそ妖精のようで素敵でした。いつかそれを表現できたらと思います。もう一度踊りたい。それは夢でもあります。

歳を重ねていくと、もっと若い子が踊った方がいいとか考えるバレリーナも少なくないと思いますが、やりたいことをやることは周りの人も幸せにすると思うんです。踊りが好きだから。それしかないです。私はものすごく体形が恵まれているわけでもなく、器用なタイプではありませんが、『踊っていいよ』って言ってくれるなら踊り続けたい」

 

~経験を分かち合いたい~

 

 その『踊ってほしいオファー』は次々と舞い込んでいる。

2019年7月28日(日)には『シンデレラ』で主演を踊る。

「王子役は、ロサンゼルス・バレエ団プリンシパルの清水健太さんです。2008年に『コッペリア』で共演したことがあるので、ほぼ10年ぶりになるんですが、不思議と久しぶりな感覚がしないんです。ストーリーをちゃんと伝える作品にしようねと色々相談しつつ、楽しみながら進めています。健太さんはパートナリングがとても上手なので安心しています。

『シンデレラ』で一番好きなシーンは、魔法が解けてお城での出来事を回想して踊る3幕の場面です。夢のような記憶を回想してステップを踏んでいる、

その幸福感をお客さんとシェアできたら嬉しいです」

 

そして、2019年8月10日(土)には日本バレエ協会の<合同バレエの夕べ>に出演が決定。「『卒業舞踏会』のシルフィード役で踊ります。相手役の高比良洋さんとは初共演になります。スラッとしていてポジションがきれいなダンサーだと遠目で拝見していたので楽しみです」

 

 バレリーナの顔以外にも、2018年からバレエジャポンのアーティスティックアドバイザーに就任。インタビュアーとしての才能も発揮させ、バレエダンサーとのインタビュー記事を掲載している。現役ダンサーならではの鋭い質問、深い対話は非常に興味深い。じつは、今回のインタビューで彼女の質問事項をかなり参考にさせてもらっている。

「ダンサー同士、本音で語る機会があまりないので、前から聞いてみたかった質問を投げかけています。聞いてほしいこだわりがダンサーにもあるはずなので、今後も続けていきたいと思います。

 私はオランダの留学中から、バレエを知らない人にどうやったら興味をもってもらえるか、バレエを言葉にしたらどうしたらいいかということを常に

意識していたと思います。10代の頃の自分にアドバスをするとしたら、精神面では、『そのまま突き進め。それでいいよ』と。でもスキル的には、『バーレッスンを毎日ちゃんと向き合ってやりなさい』と言いたい(笑)。その頃は跳びたい、回りたいという気持ちが強く、地味なプリエはあまりやりたくなかったかな(笑)」

 

 今後やりたいことはたくさんある。

「私はものすごくラッキーで、普通では味わえない経験を色々さえてもらいました。その経験を分かち合いたい。バレエの奥の深さや面白さ、ステップを教えるのはもちろん、まず、頑張る方向性を示したいと思います。

 コンクールに入賞してからがスタートです。そこからどういう風な自分、踊りを追求したいのか。プロになるのであれば、ヴァリエーションだけ踊れるだけでは不十分です。ヴァリエーションは2,3分をやりきれれば何とかなりますが、全幕はたとえ主役でなくても、前後のストーリー背景、どの位置で踊っているかを常に把握し、オーケストラの音楽に敏感になり、体調の自己管理を徹底しなくてはいけません。

それを心底やりたいと思えなくては、プロのダンサーにはなれません。自分がこうしたいという強い意思、積極的な姿勢が問われます」

 

 その経験を元にした、プロのダンサーに大切なことを語る<特別セミナー>の2019年8月18日(日)に開催が決定。「どこのバレエ学校に留学すべきか、コンクールで1位をどうすれば獲得できるか以外に、プロのダンサーを目指すならもっと大切なことがあります。それを知らないままでいるのは、もったいないと思います」

○公式URL

https://www.instagram.com/rina_kambe/?hl=ja

○プロフィール

3歳よりバレエを始める。1996年 第12回全日本バレエコンクール ジュニアの部 第2位。
1997年 第54回全国舞踊コンクール ジュニアの部 第1位。1999年 ローザンヌ国際バレエ・コンクール エスポワール賞/コンテンポラリー・ヴァリエーション賞を受賞。同年、オランダの王立コンセルバトワール バレエ科に留学。2002年より国内で「眠りの森の美女」「くるみ割り人形」「コッペリア」など数々の作品に主演。2016年 チェコ国立ブルノバレエ団に所属。2018年から活動の拠点を日本に移し、バレエジャポンのアーティスティックアドバイザーに就任。ゲストダンサーとして様々な公演に出演している。

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