Vol.65
山本雅也 Yamamoto Masaya

「自分自身を認めてあげないと、
バレエは続けられません」
Kバレエカンパニー・プリンシパル
2014年にKバレエカンパニー入団の数年後には、『コッペリア』『ジゼル』『ラ・バヤデール』など主要な役に次々に抜擢され、2020年1月にはプリンシパルに昇格。2020年10月の「海賊」ではアリに主演し、溌剌と舞台を駆け抜ける生き生きとした姿は高評価を得た。
― 2017年と今回とでは、ご自分自身どんなところに変化を感じていますか?
2017年にアリを演じたときは、自分にとってもデビューでしたし、同じアリを演じた他のキャストはみんな年上だったこともあり、当時23歳だった自分なりの若くて等身大のアリになろうと思っていました。今回はアリとして二度目、かつプリンシパルになってから初めての舞台。そして後輩もアリを演じるということで、2017年の頃より強く大きく、よりみんなを率いる力が強いアリを演じられればと思って踊りました。
新型コロナウイルス感染症の影響により、上演を予定していた公演の中止・延期が続いたため、10月の海賊公演では「ようやく舞台に立てる」という喜びと興奮を存分に発散できたと思います。
― 4歳からバレエをはじめたきっかけは?
地元のバレエスタジオが家から徒歩1分のところにあり、兄が先に習っていたのを真似して、僕も習いたいと言ったのがきっかけです。
― 15歳でオーストラリアバレエスクールへ留学されていますが、幼少の頃から海外の憧れはあったのでしょうか?オーストラリアスクールを選んだ理由も教えてください。
バレエをこの先もずっとやっていきたいと思い始めた小学5年生くらいからです。バレエをやるなら海外でという気持ちはなんとなくは持っていました。その頃にコンクールで短期のスカラーシップをいただき、初めて訪れた海外のスクールがオーストラリアバレエスクールでした。オーストラリアという国はとても温かみがあって親しみやすいイメージがあったのと、バレエスクールも馴染みやすそうな雰囲気で、何より校長先生に自分のことを気に入っていただけたので選びました。
― プロのダンサーになろうと意識したのはいつ頃からですか?
小学高学年くらいからコンクールに出場するようになり、同世代の男子たちと会うようになって彼らに負けたくないという思いから、「せっかくならプロに」と考えるようになりました。
― ダンサー以外の選択は考えたことがありましたか?
バレエをずっとやってきて、早いうちからバレエダンサーになりたいと思っていたので、他の選択はあまり考えたことがありません。
― 英国ロイヤルの留学中に一番忘れられない出来事はありますか?
アコスタ版『ドン・キホーテ』でキトリ役が舞台上で怪我をしてしまったときです。キトリの踊る場面でしたが音楽は止められないので、そのシーンが終わるまで周りのダンサーが即興で踊って舞台を繋げたのを目の前で見ていて、一流のプロフェッショナルの凄さを感じました。
― 2014年にKバレエカンパニーに入団されてまだ6年あまりですが、その中でもっとも印象に残る舞台は何でしょうか?その理由も教えてください。
すべての舞台が印象的で記憶に残っていますが、特に挙げるとすれば『ジゼル』で主演した舞台と、2017年の世界初演『クレオパトラ』です。『ジゼル』では自分の感情が溢れて、舞台でだけでなく人生で初めての体験をたくさん得ることができました。
『クレオパトラ』は、熊川ディレクターの創り出した素晴らしい舞台にクリエーションの段階から携わった一員として、鳥肌が立つほどとても感動しました。
― 2020年1月にプリンシパルに昇格しています。そのときどういった気持ちを抱かれましたか?
純粋に「バレエをやってきてよかった!」と思いました。熊川ディレクターとローザンヌで初めてお会いした7年前の瞬間とシーンが被って、今までのバレエ人生がフラッシュバックした感覚でした。
― このまま幕が降りてほしくないと感じた舞台はありますか?
『ジゼル』です。ずっとこの感情に浸っていたいと思いました。
― これまでもっとも満足を得られた出演舞台はありますか?
やはり『ジゼル』ですね。それと、昇格を告げられた2020年1月の『白鳥の湖』です。やり切った感覚が他の舞台とは違い、自分の中の何かが変わったと思える舞台でした。
― 逆に、自分の中で思い通りにいかずに悔しくて眠れなかった舞台等はありますか?
初めて主演を踊らせていただいた『ラプソディー』です。リベンジするまでバレエは辞められません!
― 落ち込んだときなど、どうやって精神を立て直していますか?
あまり落ち込むことはないのですが、気持ちが下がり気味なときはお腹いっぱいご飯を食べて、ゆっくり風呂に入ってしっかり寝る!ですね。
ネガティブに物事を考えすぎる前に、その日を終わらせるのが大切だと思います。
― ダンサー仲間や先輩からかけられた中で、大事にしている言葉はありますか?
初めて『くるみ割り人形』の王子を踊ったときに、マリー姫役の白石あゆ美さんから「落ち着いて」と舞台上で言われたことです。今でも踊るときは自分に言い聞かせるようにしています。
― ダンサーとして強みと弱みをご自身で分析すると、どう評価しますか?
自分自身を認めてあげないと、バレエは続けられません。バレエには点数はありませんし、観る人の好みによる面もありますので、自分が強みだと思っているところがもしかしたら他人から見れば悪いところかもしれませんし、その逆も然りです。自分自身、弱みはないと思っています。
― 2020年12月2日から『くるみ割り人形』で王子に出演されますが、一番感情移入するシーンを教えてください。
特に感情移入するシーンは、魔法が解けてくるみ割り人形から王子に変わる場面ですね。心身ともに解放されます。王子が登場する1幕のバトルシーンも、毎回とても楽しく新鮮な気持ちで演じることができます。人間とは異なる動きで人形のように踊りますので、お客様にはぜひ楽しんで観ていただければと思います。
― マリー姫役の成田紗弥さんは、山本さんからみてどんなダンサーですか?
身体のラインが綺麗で、とても雰囲気のある踊り手だと思います。
― 2020年12月の「くるみ」以降の舞台や活動予定を教えてください。
2021年3月24日から開幕する『白鳥の湖』で、初日の24日と26日にジークフリードを踊ります。オデット/オディール役の小林美奈さんと共演するのは2年ぶりとなるので楽しみです。
― ダンサーとして、今後挑戦したいことをシェアしてもらえますか?
コロナ禍で中止となってしまった舞台、悔いの残る舞台、そしてこれからもたくさん出会えるであろう自分を成長させてくれる舞台には、欠かさず立っていきたい。
「たとえ、今後バレエが踊れなくなったとしても悔いが残らないように」という想いで日々挑戦しつづけていきたいと思います。
〇公演情報
Kバレエ カンパニー『くるみ割り人形』
2020年12月2日(水)~6日(日)Bunkamuraオーチャードホール
https://www.k-ballet.co.jp/contents/2020nutcracker
Kバレエ カンパニー『白鳥の湖』
2021年3月24日(水)~28日(日)Bunkamuraオーチャードホール
https://www.k-ballet.co.jp/contents/2021swanlake
〇山本雅也・プロフィール
2010年オーストラリアバレエスクールに留学。13年ローザンヌ国際バレエ・コンクール第3位/プロ研修賞受賞。同年、英国ロイヤル・バレエ団へ研修生となる。14年11月Kバレエ カンパニーに入団。16年11月ソリスト、17年9月ファースト・ソリスト、18年9月プリンシパル・ソリストに昇格。初演のキャストは、熊川振付『クレオパトラ』のプトレマイオス、宮尾俊太郎振付『Piano Concerto Edvard』など。20年1月プリンシパルに昇格。
