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堀内將平

Horiuchi Shohei

「完璧でないところに自分の“安心”を見つける」

堀内將平.tif

​DancersWeb 
Vol.71 Jun 2021

Kバレエ カンパニー プリンシパル

 2015年にKバレエ カンパニーにアーティストで入団して以来、毎年一つずつ昇進を重ね、2020年10月にはプリンシパルに昇格し、ますます躍進を遂げている堀内將平。2018年の『死霊の恋』では熊川芸術監督と共にクリエーションに参加し、2021年8月には舞踊監修として『BALLET The New Classic』を率いる。本公演に賭ける思いとこれまでのバレエライフについて率直に語ってくれた。

 

―10歳でバレエをはじめる前に、7歳から体操教室に通っていたそうですね。

 

 小学生のころ鉄棒が好きだったのがきっかけで、身体も柔らかかったこともあり、両親の間で習いごとをさせようという話になったそうです。学生時代は水泳やサッカーに挑戦しましたが、あまり長続きしなかったですね。球が飛んでくるのが怖かったので、球技はあまり好きではなかったです(笑)。

 

―いくつかのバレエ教室を見学されて、ロシア人の先生の教室に決めた理由はなんでしょう?

 

 その教室はプロフェッショナルな雰囲気で、ほかとはまったく空気感が違いました。僕も母もそこが気に入り、ロシア人の先生の教室に通うことを決めたんです。

先生からは『もっとレッスンに来なさい』と目をかけてくださって、可愛がってもらいました。

 

―そのわずか4年後に海外のバレエ学校に単身留学するというのは、すでに頭角が表れていますね。

 

 恩師の最終的な目標として、僕を「ジョン・クランコ・バレエスクールのロシア人教師に習わせたい」という思いがあり、そのためにはまずロシア語を習わせなければという考えがあったようです。それで最初はウズベキスタンのバレエ学校に留学しました。

 

―弱冠14歳にしてはじめての単身海外生活は、色々大変だったのではないでしょうか?

 

 ウズベキスタンでは、バレエクラス以外にもピアノレッスンも必須科目だったんですよ。ロシア語のレッスンもあったので結構毎日忙しかったですね。

 

―その後、日本に戻らずに16歳でジョン・クランコ・バレエスクールに入学していますが、かなり環境に変化があったようですね。

 

 日本の教室では、男の子は僕だけだったので可愛がってもらっていましたし、ウズベキスタンでもこれまで通りやっていればよかったのですが、クランコはそうはいかなかった。優秀な生徒が世界中から集まってくる有名な学校だったので、レベルがケタ違いに高かったです。

 男子生徒たちと一列になって並んだときに、みんな小顔でスタイルもすごく良くて、鏡を見るのもイヤになりましたね(笑)。

 

―レッスンも相当厳しかったとようですが、3年間続けてこれた理由はなんだと思いますか?

 

 辞める方が怖かったんです。バレエを辞めて何するんだろう?と思ったときにほかに思い浮かばない。それまでの自分を否定しなくてはいけなくなるじゃないですか。それもあって続けて来れたんだと思います」

 

 

 

 

 

 

―これまでを振り返って、ターニングポイントとなった舞台はなんでしょうか?

 

 ひとつに絞れませんが、『死霊の恋』のロミュオー、『クレオパトラ』のアントニウスと、選ばれた神殿男娼の役が、大きく成長できたターニングポイントだったと思います。

 それまでは求められているものが出せないというもどかしさもあって、Kバレエのスタイルを習得しようと必死でした。たとえば、ランケデム、エスパーダという野性味のある役は自分に合っていない、表現できていないと悩み、キャラクターへの苦手意識が強かったように思います。

 

―ひとつ脱皮できたというきっかけは?

 

 それまでは、ワイルドさが求められる役は一生懸命演じていた感覚ですが、あるとき熊川ディレクターから『アーティスティックな踊りがいいね』と言葉をかけていただいて、自分の持っている個性を信じて少しずつ出せるようになりました。

 『死霊の恋』はオリジナルキャストとして僕に振り付けていただいた作品なので、そのままの僕自身で良かった。その作品で、はじめて“自分をさらけ出す”という感覚を体感できました。

熊川ディレクターから、堀内らしさを見つけて引っ張り出してもらえたことで、自信につながりました。

 

―以前のインタビューで、ロシアとKバレエの音楽のカウントの取り方が違うので慣れるまで大変だったというお話も興味深いです。

 

 ロシアでは大きい音を大切にしています。たとえば「1」が一番大きいグラン・ジュッテだと、「1」が一番高いところになります。クランコでも基本的にワガノワ・メソッドと同じでした。

 それに対して、Kバレエでは「1」で上昇していってその高みのまま維持するという感覚です。カウントの後取りで、少し遅らせて飛ぶ感覚でしょうか。音にはちゃんとハマっているので観ている方に違和感はないと思いますが、よりダイナミックな印象になると思います。

 

―自粛期間中には、メンタルトレーニングも取り入れられたそうですが、メンタルトレーニングでもっとも影響を受けたことは?

 

 「減点法ではなく、加点法にすること」です。

日々練習するのは、「上手になりたい=安心したい」に繋がっている。人に認められたい、嫌われたくない、自分を嫌いたくない、という思いが最終的に安心したいに繋がっていると思います。

 では、完璧になれば安心するのかというと、そうとも限らない。また、完璧だからという理由で人を好きになるわけでもないじゃないですか。そもそも完璧でいる必要はない。

「完璧でないところに自分の“安心”を見つける」。この考え方は僕にとっては、ものすごく大きな気づきでした。

 

―かなり徹底した生活習慣をお持ちだとか?

 

 ストイックに生活するのが好きです。日々の食生活や睡眠に気をつければ、良いパフォーマンスに繋がりますし、上手く踊れるという安心感が得られると思っていました。

 でもそうすると、「これだけやったから失敗するはずがない」という新たなプレッシャーをかけてしまうんですよね。僕の場合、自分にプレッシャーをかけすぎる傾向にあるのでストイックにしすぎないようにしています。

 

―これまで観たバレエ公演で。もっとも記憶に残る公演とダンサーを挙げると?

 

 最近観たナタリア・オシポワさんの『ドン・キホーテ』ですね。

もう「next level」(ネクスト・レベル=別次元)にいらっしゃいました。バレエを上手に踊ろうというレベルではない。舞台に立つとどうしても綺麗に踊ろうとかバランスなど細かいところに気を遣っちゃうものです。でもオシポワさんは役そのものを生きている。舞台を生きている。素晴らしかったです」

 

 

 

 

―ダンサーとしてこれまででもっとも勇気づけられた言葉はありますか?

 

 恩師からいつも言われている言葉なのですが、「なんでもできる」ですね。ターンアウトができなくても、努力し続ければできるようになる。たとえできなくても、できているように見せる工夫もできる。

「どんなことでも努力次第で手に入れられる」この言葉は、常に僕の中にあります。

 

―逆に、落ち込んだときはどのように立て直しているのでしょうか?

 

 「落ち込んだときにも努力はやめない」という精神で乗り切っています。

2週間もあれば気分も回復しますし(笑)、具体的に何かできなかったときは次に改善する、トライ・アンド・エラーを続けることですね。

 

―その中でももっとも苦悩を経験した時期はありますか?

 

 毎日が「苦悩」ですね。バレエを辞めたいと塞ぎ込んだり、舞台の後に落ち込んだり。「落ち込む」という点では、毎日ですよ。自分自身に足りないもの、できないものが多くて日々自分を叱咤激励している感じでしょうか。

 あるとき、『白鳥の湖』の舞台直後にすごく落ち込んでしまい、熊川ディレクターが、『大丈夫だよ。自分に厳しくしすぎだよ』と優しく声をかけてくださったことがありました(笑)。

 

―ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』に「死」の役で出演されますが、振付・出演の小㞍健太さんとのリハーサルはどんな感じでしたか?

 

 「小㞍さんの振付なので、随所に彼ならではのスキルが入っています。最初に見たときは自分に出来るだろうかと思いましたが、小㞍さんからは『堀内くんの死のダンサーでいいからね』と言ってもらえたり、演出家の小池修一郎さんからも『Kバレエらしさを出してほしい』とアドバイスをいただき少しホッとしました。

 小㞍さんは決して大柄ではないのに、いざ動き始めるとアームスが長くてとても綺麗なんです。身体の使い方、腕の使い方で、長く綺麗に見せる方法を学ばせてもらいました。

 

―ダンサーとしての美学はありますか?

 

 オペラ歌手は声がひとつの芸術で、体操選手は高い技術が芸術のように、バレエは腕や脚の曲げ方ひとつでも綺麗に見せる芸術があります。あえて言葉にすると、肉体がひとつの芸術になる「身体芸術」を極めることでしょうか。

 

―この8月には『BALLET The New Classic』の舞踊監修と出演が決定しています。

 

 「こんな舞台あったらいいな」というビジョンは以前から頭に描いていて、舞台を創ってみたいという思いがあったんです。あるとき、「こういう舞台やりたいんだよね」と周囲に話したところ、「いいんじゃない!やろうよ!」と後押ししてくれて、実現に至りました。

 

―舞踊監修としての具体的な役割はどんなものでしょう?出演もされますね。

 

 キャスティング、演目もすべてバレエに関する部分は僕が決定しています。

『シェヘラザード』には初役で出演します。ガラ公演のプログラムについて以前からもう少しバラエティがある方がいいのではないかという思いもありました。

 本公演には、バレエを知らない方達にも見てもらいたいという願いもあるので、『瀕死の白鳥』や『アラビアンナイト』など、誰にでも親しみがあり、キャッチーでオリエンタルな演目も入れました。

 

―音楽は滝澤志野さんが担いますね。

 

 とても著名なバレエピアニストなので、志野さんの参加は嬉しいです。

僕の中の感覚なのですが、バレエ作品によってはオーケストラ音楽が壮大過ぎると感じるときがあります。

本公演では、志野さんのピアノ伴奏のコンサート形式で聴かせるようにアレンジしていただきます。演目によってテープ音源の使用もあり、生演奏との両方で楽しんでいただけたらと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―10月7日(木)と9日(土)には『シンデレラ』の王子に主演されます。初役になりますが、この役に賭ける思いは?

 

 『白鳥の湖』の王子は結構感情の起伏があるキャラクターなのですが、『シンデレラ』のキャラクターはそこまで強くないですよね。なので、王子の立ち位置や人間らしさも追求していきたいと思います。

 

 

―そして、矢内千夏さんとは久しぶりのパートナリングになります。

 

 まず矢内さんは演技が上手で、何を表現しているのかがすぐ分かります。18歳で入団したときから、なんでも踊れて運動神経が良く、どんな役でも踊りこなしてしまう印象で、踊りもどんどん綺麗になっていく。

 自分にも厳しく、内に秘めた感情が熱いダンサーです。矢内さんが『また堀内さんと組みたい』と言ってくれて、またパートナーとしていっしょに踊れるのが今からとても楽しみです。

 

―ダンサーとしての今後やりたいこともシェアしていただけますか?

 

 色々なことに挑戦したいですね。ミュージカルにも出演させていただいていますが、舞台を創ることにも挑戦中ですし、今はとにかくなんでもやってみたい。トライ・アンド・エラーで自分に合ったものをこれからも見つけていきたいと思います。

「BALLET The New Classic」
2021年8月7日(土) ~10日(火)恵比寿ガーデンプレイス ザ・ガーデンホール
https://www.balletthenewclassic.com/

Kバレエ カンパニー Autumn Tour 2021『シンデレラ』    
[札幌公演]2021年10月2日(土)、3日(日) 札幌文化芸術劇場 hitaru
[東京公演]2021年10月7日(木)~10日(日) Bunkamuraオーチャードホール
https://www.k-ballet.co.jp/contents/2021cinderella

 

【堀内將平/Kバレエ カンパニープリンシパル】
10歳よりバレエを始める。2008年ジョン・クランコ・バレエ スクールに留学。2012年よりルーマニア国立バレエ団にファースト・ソリストとして在籍。2015年8月にKバレエ カンパニーにアーティストとして入団。2016年9月ファースト・アーティスト、2017年9月ソリスト、2018年9月ファースト・ソリスト、2019年9月プリンシパル・ソリスト、2020年10月にプリンシパルに昇格。2017年8月にKバレエ ユース第3回公演『眠れる森の美女』のフロリムント王子を踊る。Kバレエ スクール ティーチャーズ・トレーニングコース修了。同校にて教師を務める。

○公式URL
https://www.k-ballet.co.jp/

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